第51回:機械式駐車場平面化|メッキの厚みとメンテナンスの必要性
皆さんこんにちは。
先日、ある塗料メーカーの営業の方(以下、Aさん)とお話しする機会がありました。その際、Aさんからこんな質問を受けました。
「野村さん、実は今、ある立体駐車場メーカー(仮にP社とします)から、『立体駐車場のメッキ補修用塗料を作って欲しい』というお問い合わせを頂いているんです。P社の立体駐車場は、床板に、製鉄所でメッキ済みの鋼板を使ったプレハブ式の立体駐車場です。メッキが施されているはずなのに、どうして頻繁にメッキが剥がれて、補修が必要になるのでしょうか?」
一見すると、「メッキが剥がれたから補修する」というだけの、よくある話に聞こえます。何も疑問を持たなければ、そのまま聞き流してしまうところでしょう。けれどAさんは塗料のプロです。「メッキは本来錆びにくく、多少の傷なら自ら修復できるはずなのに…」と、この話に引っかかりを覚えたのです。
その話を聞いて、私はすぐにこう答えました。「それは、駐車場に必要なメッキの厚みが足りていないんです!」。Aさんも、静かにうなずいていました。
実はこの話、私たちが日々取り組んでいる機械式駐車場の平面化にも、そのまま当てはまります。平面化した鋼製床もまた、毎日タイヤの重さと擦れを受け止める「駐車場の床」だからです。以前、第31回コラムで「メッキの厚さも重要な要素」とお伝えしていましたが、今回はその続きとして、駐車場に必要な「メッキの厚み」と、平面化後のメンテナンスとの関係について解説して参ります。
頑丈で、加工しやすく、値段も手ごろな鋼板。けれど、それが駐車場の材料として最もふさわしいかどうかは、少し立ち止まって考えてみる必要があります。
鋼板メッキの落とし穴|「いつメッキするか」で変わる品質
第41回コラム「機械式駐車場の鋼製平面化 安全性を高める耐久性」で、鋼材に施すメッキには「溶融亜鉛メッキ」と「鋼板メッキ」の2種類があるとご紹介しました。どちらも亜鉛で鉄を守るメッキですが、両者の大きな違いは「いつメッキをするか」というタイミングにあります。
溶融亜鉛メッキ|形を作り終えてから、まるごとメッキする
溶融亜鉛メッキは、製鉄所から出荷された鋼材を、鉄鋼加工会社で梁や柱などの製品に加工し、その後、メッキ工場で製品ごと溶けた亜鉛の槽に漬け込んでメッキを施します。この作業は、通称「ドブ漬け」とも呼ばれています。
<溶融亜鉛メッキが施されるまでの流れ>
製鉄所(鋼材を出荷)→ 鉄鋼加工会社(H鋼やC型鋼などの製品に加工)→ メッキ工場(形を作り終えた製品を、まるごとメッキ槽に漬ける)
鋼板メッキ|メッキを済ませてから、形を作る
一方、鋼板メッキは、製鉄所で鋼板の段階でメッキを施し、ロール状に巻いて出荷されます(通称:ロール)。鉄鋼加工会社では、このメッキ済みの鋼板を切断したり、折り曲げたりして製品に仕上げます。代表的なのが、C型鋼のように、メッキ済みの鋼板を折り曲げて作る部材です。
<鋼板メッキが施されるまでの流れ>
製鉄所(鋼板にメッキを施し、ロール状にして出荷)→ 鉄鋼加工会社(メッキ済みの鋼板を切断・折り曲げて、C型鋼などの製品に加工)
溶融亜鉛メッキが「製鉄所 → 鉄鋼加工会社 → メッキ工場」と3つの工程を経るのに対し、鋼板メッキはメッキまでを製鉄所1か所で済ませることができます。工程が少ない分、製品は安価で、加工もしやすい。これは鋼板メッキの確かな長所です。ただし、「メッキをしてから加工する」という順番そのものに、駐車場で使う上での落とし穴が潜んでいます。
メッキが持つ2つの「守る力」
落とし穴のお話の前に、そもそもメッキがどのように鉄を守っているのかを確認しておきましょう。亜鉛のメッキには、大きく分けて2つの「守る力」があります。
保護被膜作用|亜鉛の膜で鉄を覆う
1つ目は「保護被膜作用」です。亜鉛の膜が鉄の表面をすっぽりと覆い、雨や空気から遮ることで錆を防ぎます。いわば、鉄にレインコートを着せている状態です。
犠牲防食作用|傷ついても、周りの亜鉛が身代わりになる
2つ目は「犠牲防食作用」です。メッキに傷がつき、鉄がむき出しになっても、周りの亜鉛が先に溶け出すことで、鉄が錆びるのを防ぎます。亜鉛が鉄の身代わり(犠牲)となって守ってくれるのです。冒頭でAさんが口にした「多少の傷なら自ら修復できる」という性質の正体は、この犠牲防食作用です。
ここで大切なのは、この身代わりには「限り」があるということです。犠牲防食作用は、例えるなら「亜鉛の貯金」のようなものです。傷がつくたびに貯金が少しずつ引き出され、残高がなくなったとき、鉄はいよいよ錆び始めます。つまり、どれだけ長く鉄を守れるかは、最初にどれだけの亜鉛を蓄えているか、すなわちメッキの厚みにかかっているのです。
加工した部分のメッキは薄くなる
では、先ほどの「メッキをしてから加工する」という順番に話を戻しましょう。
曲げた部分|メッキが引き伸ばされる
メッキ済みの鋼板を折り曲げると、曲げた部分の外側では、メッキも鋼板と一緒に引き伸ばされます。伸ばされた分だけ、その部分のメッキは必然的に薄くなります。また、硬い合金メッキの場合には、曲げた部分に細かな割れが生じることもあります。
切断した部分|鉄がむき出しになる
さらに、鋼板を切断した面にはメッキがありません。鋼材の芯の部分(通称:なま鉄)がそのまま露出するため、本来は補修が必要な箇所となります。
使い始める前から、貯金を引き出している
曲げた部分の薄くなったメッキ、切断面のむき出しの鉄。こうした箇所では、駐車場として使い始める前から、周りの亜鉛が犠牲防食作用で働き始めます。先ほどの例えで言えば、使い始める前から、少しずつ貯金を引き出している状態とも言えます。
一方、溶融亜鉛メッキは、切断や曲げ、穴あけなど全ての加工を終えた後に、製品をまるごとメッキ槽に漬け込みます。そのため、曲げた部分も切断した面も含めて、製品全体が均一にメッキで覆われます。
メッキの量|数え方をそろえて比べると
加えて、もともと付いているメッキの量にも差があります。
第41回では、溶融亜鉛メッキの付着量を約450g/㎡、鋼板メッキを約275g/㎡としてご紹介し、その差を約1.6倍とお伝えしました。ただ、この2つの数字は、実は“数え方”が異なります。溶融亜鉛メッキの450g/㎡は片面あたりの量であるのに対し、鋼板メッキの275g/㎡は表と裏を合わせた両面の量です。両面で数え方をそろえると、次のようになります。
溶融亜鉛メッキの付着量…約900g/㎡(片面 約450g/㎡ × 両面)
鋼板メッキの付着量………約275g/㎡(両面の合計)
900g/㎡ ÷ 275g/㎡ ≒ 3.3
その差は、約3.3倍にまで広がります。
もともとの貯金が少ないうえに、加工した部分ではさらに目減りしている。これが、鋼板メッキの製品が駐車場で抱えやすい弱点です。
「錆に強い」と「駐車場の床に強い」は違う
優れた合金メッキ鋼板の登場
近年は、国内の大手鉄鋼メーカーから、亜鉛にアルミニウムやマグネシウムを加えた合金メッキ鋼板が開発されています。カタログでは「錆に何倍も強い」「傷がつきにくい」といった性能がうたわれており、実際に、素材としては非常に優れた鋼板です。平面化工事の説明の中で、こうした鋼板を勧められた管理組合の方もいらっしゃるかもしれません。
錆びにくさでは、大きな差はない
ここで少し、比べ方を工夫してみます。こうした合金メッキ鋼板は、同じ量の亜鉛で比べれば、溶融亜鉛メッキの何倍も錆びにくい素材です。その一方で、実際に付いているメッキの量はずっと少なめです。そこで、実際の付着量に錆びにくさの倍率を掛け合わせ、製品としての「錆びにくさの総合力」で比べると、次のような並びになります。
合金メッキ鋼板 > 溶融亜鉛メッキ > 改良を重ねた最新の高耐食メッキ鋼板
保護被膜作用、つまり錆びにくさという点では、鋼板メッキの方が上回る場合もあり、溶融亜鉛メッキとの間に大きな差はありません。
傷への粘り強さは、亜鉛の量で決まる
一方、駐車場の床で問われるのは、もう1つの力である犠牲防食作用です。こちらは、どれだけの亜鉛を蓄えているかが、そのまま効いてきます。
溶融亜鉛メッキ……………………約900g/㎡
合金メッキ鋼板……………………約275g/㎡
最新の高耐食メッキ鋼板…………約80g/㎡
亜鉛の貯金の額で比べると、溶融亜鉛メッキが大きく上回ることが分かります。
「駐車場の床」という使用用途
では、「駐車場の床」という使用用途は、材料にとってどのような環境なのでしょうか。
駐車場の床には、1台あたり1トンから2トン近い車が、毎日乗り降りします。車が停まっていない時は0トン、停まれば2トン近く。この重さが、かかっては抜け、かかっては抜けを毎日繰り返します。しかも月極の駐車場では、同じ車が同じ区画に停まるため、タイヤが乗る位置はいつも同じです。
入出庫のたびにタイヤは床の上で回り、切り返しやハンドルの据え切りでは、床をねじるように擦ります。さらに、駐車場の通路に多い透水性アスファルト舗装は、表面の小石(骨材)が剥がれやすく、その小石をタイヤの溝に噛んだまま、車は床の上に入ってきます。雨や雪の日には、濡れたタイヤが滑ったり空回りしたりしながら、小石を床に擦りつけることもあります。そしてこれを、何年も、何十年も繰り返していくのです。
カタログに載っている傷付き試験は、数百グラム程度の荷重をかけて表面をこすり、傷の付き方を確かめるものです。一方、駐車場の床では、タイヤ1本あたり500キログラムを超える重さで、小石が擦りつけられます。その差は、およそ千倍です。
この試験で分かるのは、「数百グラムの力でこすったときに、傷が付きにくいかどうか」です。表面が硬いほど、この試験では良い結果が出ます。けれど、駐車場の床にかかるのは、その千倍もの力です。これほど大きな力がかかれば、硬い表面であっても傷は付きます。数百グラムの試験で示された硬さを、そのまま駐車場の床の強さに当てはめることはできないのです。
そして、傷が付いたあとに鉄を守るのは、表面の硬さではなく、蓄えられた亜鉛の量です。傷が付くたびに、犠牲防食作用によって亜鉛の貯金は引き出されていきます。
カタログの数字は、決して偽りではありません。ただし、どの数字も「ある条件の下で測った結果」です。数字が分かりやすく、魅力的であるほど、それが何を、どのような条件で測った数字なのかを確かめてから受け止めることが大切です。
建物の外壁や物置のように、人や車が上を通ることのない場所で使う鋼板であれば、こうした力を受けることはほとんどありません。同じ鋼板であっても、使用用途が変われば、求められる強さも変わります。素材として優れていることと、駐車場という過酷な使用用途で長持ちすることは、同じ物差しでは測りきれないのです。
なぜ立体駐車場でメッキの補修が必要になるのか|Aさんへの答え
ここで、冒頭のAさんの疑問に戻りましょう。
P社の立体駐車場の床板は、メッキ済みの鋼板から作られています。もともとの亜鉛の量が少なく、曲げた部分や切断した面では、使い始める前から貯金が目減りしています。そこへ、毎日同じ位置にタイヤが乗り、小石を噛んだタイヤが床を擦っていきます(タイヤの重さが一か所に集中する問題については、第18回コラムもご参照下さい)。特に、床材に多く使われるC型鋼の曲げた部分は、もともとメッキが薄くなっているため、そこに傷がつくと、貯金はあっという間に底をついてしまいます。
傷がつく。亜鉛の貯金が引き出される。残高が尽きる。錆が出て、補修が必要になる。Aさんが不思議に感じた「メッキなのに頻繁に補修が要る」理由は、この流れにあります。メッキそのものが悪いのではなく、駐車場の床という使用用途に対して、蓄えておくべき亜鉛の量が足りていなかったのです。
立体駐車場の話は、平面化の床選びの話でもある
平面化した床も、同じ条件にさらされる
このお話は、立体駐車場に限ったことではありません。機械式駐車場を撤去して鋼製床で平面化した駐車場も、毎日タイヤの重さと擦れを受け止める「駐車場の床」であることに変わりはないからです。平面化工事でも、床材に鋼板メッキを使うか、溶融亜鉛メッキを使うかによって、その後の補修の頻度は大きく変わってきます。平面化後のメンテナンスについては、第13回:「機械式駐車場撤去・平面化後のメンテナンスの必要性」でも解説しています。
何のための平面化だったのか
機械式駐車場を平面化する大きな目的の1つは、高額な維持管理費や修繕の負担から解放されることにあるはずです。ところが、平面化した床で補修を何度も繰り返すことになれば、「何のために機械式駐車場を撤去して平面化したのか」という問いに立ち返ることになりかねません。平面化の後に潜む費用については、第43回:「機械式駐車場平面化の隠れた費用とリスク」で詳しくお話ししています。
ノムラのマルチステージが溶融亜鉛メッキを選ぶ理由
ノムラのマルチステージは、運搬費などの費用がかかっても、長年の実績がある溶融亜鉛メッキ(ドブ漬け)を採用しています。厚い亜鉛の貯金で床を守ることで、基本的にメンテナンスフリーの平面化を実現するためです。
そして万一メッキが傷ついた場合でも、業者に修繕工事を依頼することなく、市販の亜鉛メッキ補修スプレーを使ってご自身で補修することができます。補修の方法については、第42回:「機械式駐車場平面化の注意点|鋼製床のメンテナンスの矛盾」をご参照下さい。
まとめ|材料は「使用用途・目的」で選ぶ
第41回では、お客様から「鋼板メッキの方がキレイなのでは?」というご質問を頂いたことをご紹介しました。今回のAさんの疑問も、根っこは同じところにあります。見た目の美しさや「メッキ済み」という言葉、作り手の知名度、カタログの数字だけでは、その材料が駐車場に向いているかどうかまでは見えてきません。
鋼板メッキは、頑丈で、加工しやすく、値段も手ごろです。最新の合金メッキ鋼板は、錆びにくさの点でも優れています。けれど、どんなに優秀な鋼板でも、それが駐車場に最適とは限りません。大切なのは、その材料が、実際の使われ方に合っているかどうかです。
平面化をご検討の際は、床材について、次の点を確かめてみてください。
・メッキの種類(溶融亜鉛メッキか、鋼板メッキか)
・メッキの付着量(片面の量か、両面の量か)
・曲げた部分や切断した面の処理
いずれも、口頭ではなく仕様書で確認されることをおすすめします。カタログや説明資料の数字に出会ったときも、その数字が、駐車場の床という使用用途に当てはまるものかどうかを、ぜひ一度問い直してみてください。
第48回では、「努力して続ける」持続性と、「構造的に続いていく」永続性の違いについてお話ししました。補修を重ねながら使い続ける床と、厚い亜鉛の蓄えに守られ続ける床。どちらを選ぶかは、平面化の先にある何十年をどう過ごすかの選択でもあります。自分たちの建物は、自分たちで護る(第47回)。その第一歩は、足元の床材のメッキの厚みを知ることから始まるのかもしれません。
材料の真価は、カタログの中ではなく、その“使用用途・目的”の中で問われるものです。
一級建築士・機械式駐車場開発者
野村恭三
