コラム
機械式駐車場問題を考える

第48回:機械式駐車場の平面化における持続性と永続性の違い 

「持続性」と「永続性」の違い

機械式駐車場の平面化から見える続けられること残していくこと
 
近年、「持続可能な社会」や「永続的な価値」といった言葉を耳にする機会が増えています。どちらも「長く続けていく」ことを意味しますが、実はこの持続性永続性には、明確な違いがあります。
 
機械式駐車場の平面化においても鋼材、特にH形鋼の種類によって、持続的な平面化か、永続的な平面化に別れます。
 
本コラムでは機械式駐車場平面化における持続性と永続性の違いについて、鋼製平面化に使用される鋼材(H形鋼)に焦点を当て詳しく解説致します。
 

持続性とは、「努力して続けること」

持続性(じぞくせい)とは、ある状態や仕組みを一定期間、途切れずに維持していく力を意味します。そこには「環境や条件が変わっても、努力や工夫によってなんとか続けていく」というニュアンスが含まれています。
 
例えば、機械式駐車場を定期的にメンテナンスしながら使い続けることは、まさに持続的な活用です。平面化工事においても、定期的な塗装や補修が欠かせない場合は同様です。
ただし、この方法は「いつか限界が来る」ことも前提としています。
 

永続性とは、「構造的に続いていくこと」

一方、永続性(えいぞくせい)は、半永久的に存在し続けることを前提とした仕組みや構造を意味します。
そこには「壊れにくく、劣化しにくく、代替の必要がない」ような強さと完成度が求められます。
 
例えば、機械式駐車場を撤去し、鋼製床によって平面化した駐車場は、定期的なメンテナンスを前提とせずとも高い耐久性と構造安定性を確保できます。
こうした平面化のあり方は、「持続」ではなく「永続」を目指した設計思想と言えるでしょう。
 

持続性から永続性へ──価値の転換

ノムラは、機械式駐車場の平面化を「今をしのぐ手段」ではなく、建物全体の永続的な価値につながる技術的提案として捉えています。
これは、目の前の利便性やコストだけでなく、10年後、20年後、さらにその先を見据えた「まちづくりの視点」です。
 

「続ける」のではなく、「残す」という発想へ。

持続性と永続性の違いを理解することは、社会や暮らしの未来を形づくる上で欠かせない視点です。
 

H形鋼の種類と特徴|RH形鋼とBH形鋼の違い

製造方法が異なるRH形鋼(ロールH)とBH形鋼(ビルドH

建物の骨組みや駐車場の構造に欠かせない部材「H形鋼(えいちがたこう)」。
名前の通り、断面がアルファベットの「H」の形をした鉄の梁です。
 
実はこのH形鋼、製造方法によって「RH」と「BH」の2種類があります。
 

RH形鋼(ロールH

これは、鉄を高温で加熱してローラーで一気に押し出して成形する方法で作られるH形鋼。
いわば、「製鉄所のベルトコンベアで作る既製品」です。
 
 
【特徴】
高温圧延で成形するため、一定の厚みが必要で、その分強度が高い
・品質が安定している
・サイズは決まっていてカスタムしづらい
高温圧延とは「金属を高温で加熱してやわらかくし、ローラーで一気に押し延ばして形を作る方法」
 
【よく使われる場面】
柱を立てないタイプの構造物(例:ノムラのマルチステージ)
・高強度が求められる場所
 

BH形鋼(ビルドH

一方の BHは、 鉄板を切って、溶接してH型に組み立てたもの
必要なサイズや形に応じて「ビルド」できる、いわばオーダーメイド型の鋼材です。
 
【特徴】
サイズや形状を自由に設計できる(平面化の場合、薄くて軽い鋼板を使用)
溶接部のサビに注意が必要
・メッキ鋼板を溶接すると、メッキがはがれるので上から塗装を施す必要あり
・耐用年数は 塗装の寿命に依存する
・屋外には適さない
 
【よく使われる場面】
柱を立てる構造(梁の強度を落としてもよい場合)

(画像出典元:「ビルドH、ロールHって何? – ミカオ建築館」より)
 
【比較表】RH形鋼(ロールH)|BH形鋼(ビルドH):平面化の場合の比較

H形鋼選びが持続性と永続性を決める

H形鋼選びが持続性と永続性を決める

例えば、ノムラの「マルチステージ工法」では、
・柱なし設計 → 強度が重要なのでRH形鋼を採用
他社の鋼製平面化の場合では、
・柱あり設計 → コストを重視して、鋼板の厚みが薄いBH形鋼を選択するケースが多く見られます。
 
構造設計と鋼材の選択は、安全性とコストのバランスを見極めるうえで非常に重要なポイントです。

まとめ|残すための平面化を

持続性のある平面化は、工夫や定期的なメンテナンスによって長く使い続けられる方法です。
一方、永続性を目指す平面化は、構造そのものを長期使用に耐える設計とし、将来の補修リスクを大幅に減らします。
ちなみにノムラは柱を使わない構造なので、柱の腐食による補修の心配がなく、長期間にわたり安心して使えます。
この「持続性」と「永続性」の違いを大きく左右するのが、 H形鋼の選択です。
RH
形鋼は強度と耐久性を優先し、BH形鋼は設計自由度とコスト面を優先します。どちらを選ぶかによって、その平面化が「持続的」になるのか、「永続的」になるのかが決まります。
 
H形鋼は一見どれも同じように見えますが、製造方法と構造の違いによって、強度・耐久性・使い勝手が大きく変わります。
特に駐車場の平面化といった構造強度が求められる場面では、 RH形鋼の高強度とメッキ処理による耐久性が活きます。
一方、コストや自由な設計が求められる場面では、 BH形鋼の柔軟性が有効です。
現場条件に応じた最適な選択こそが、構造の安全性と寿命を左右します。
 
ノムラは、単なる一時的対応ではなく、 残していくための永続的な平面化を提案し続けます。
それは駐車場工事にとどまらず、建物の価値と未来を守る取り組みなのです。
 
 
一級建築士・機械式駐車場開発者
野村 恭三