コラム
機械式駐車場問題を考える

 第42回:機械式駐車場平面化の注意点|鋼製床のメンテナンスの矛盾

機械式駐車場の鋼製平面化された鋼製床はメンテナンスが必要か否か

 機械式駐車場の平面化を希望される方の多くは、「使われなくなった機械式駐車場をなくしたい」、「高額な維持管理費用から解放されたい」という思いをお持ちだと思います。しかし、平面化後に「定期的なメンテナンスや床板の交換工事が必要」というのはなかなか納得し難いし、矛盾しています。今回のコラムでは機械式駐車場平面化の鋼製平面化工法(鋼製床)に焦点を当て、平面化工事後のメンテナンスの必要性の有無と対策、そしてメンテナンスにおいての注意点について詳しく解説致します。


機械式駐車場平面化はメンテナンスが必要なのか?

私どものところに「ノムラの鋼製床マルチステージはメンテナンス不要と言っているが、本当に不要なのか?」と質問が多く寄せられます。この答えは「定期的なメンテナンスは不要」です。
 
更に「他社ではメンテナンス、特に床材の塗装が剥げたら塗り替え工事が必要で、10年毎に床板の塗り替えをした方が安心と言っているが、ノムラさんのところはそうなのか?」というご質問も続けて多く寄せられます。
 
こちらの質問は、技術的観点から申し上げると、この質問自体が間違っています。
では何が間違っているか、読み解いて行きましょう。

平面化された鋼製床の床板は塗装ではなくメッキである

そもそも塗装とメッキでは皮膜の性質が異なります。メッキは皮膜が金属から成っているのに対して、塗装の皮膜は樹脂等、金属以外のものから成っています。処理方法もメッキと塗装では異なり、メッキは基本的にメッキ液に浸漬(ドブづけ)をして処理を行いますが、塗装は塗料を塗ったり吹き付けたりして処理を行います。私の推測ではありますが、この質問を寄せられたお客様は「塗装とメッキを一緒くたにした説明を受けていたのでないのか?」と推察しました。
 
メッキが剥がれる原因について、もう少し詳しく解説します。駐車場の鋼製床では、メッキの寿命は必ずしも耐候性だけで決まるわけではありません。実際のところ、路面と車のタイヤが接触することによる摩耗がメッキの寿命を決定します。メッキの厚さが大きいほど、この摩耗に耐える能力が高まり、寿命が長くなります。
先にも説明しましたが、メッキと塗装は別のものです。メッキは鉄と亜鉛の化学反応によって形成されます。この化学反応は非常に優れた性質を持っており、メッキが少し傷ついても亜鉛が再び被覆するという特性があります。これにより、少量のダメージであれば自己修復が可能となり、メッキの寿命を延ばすことができます。
 
塗装とメッキの違いは、一般の人にとっては理解しにくいかもしれません。しかし、正しい説明を受ければ、この違いを正しく理解できると思います。業者側には、正確な説明をする責任があります。たとえ言葉の違いであっても、正確な情報がお客様に伝わらないと、事実が曲解される可能性もあります。技術的な根拠に基づいた正確な説明が行われないと、情報の格差や非対称性が生じ、業者とお客様の間で問題が生じることもあります。情報の非対称性は業者が有利になり、お客様が不利な立場に追いやられることにつながります。したがって、お客様に対して説明する際には、決して誤魔化したり曖昧な説明をするべきではありません。正確な説明をすることは、業者やメーカーとしての最低限の責務だと考えます。
 
鋼製床の床板のメッキが剥げた場合の対策には、事前対策とメッキが剥げた後の対策の2つがあります。

鋼製床のメッキが剥がれる前の対策

厚みのあるメッキを使用する

鋼製床の床板のメッキの厚みを厚くすることで、剥がれを予防することができます。具体的には、製鉄所での鋼板メッキではなく厚みのある溶融亜鉛メッキを使用します。厚みのある溶融亜鉛メッキを使用すると、車の出入りが頻繁な駐車場でも剥がれにくくなります。
一方、製鉄所での鋼板メッキの場合、 曲げ加工した所のメッキ厚が薄くなり錆びてきます。この場合は錆の範囲が広くなり、スプレー補修では補修出来ない場合があります。
 
亜鉛鋼板メッキ解説図

亜鉛鋼板メッキ解説図

亜鉛溶融メッキ解説図

亜鉛溶融メッキ解説図


 

鋼製床のメッキが剥がれた後の対策

自己補修

鋼製床の床板のメッキが剥がれたり、※貰い錆によって床板の一部が錆びた場合でも、専門の工事業者に頼まずに自分で補修することができます。
補修には溶融亜鉛メッキのスプレーを使用します。このスプレーは、付着量が一定以上の溶融亜鉛メッキであれば、補修に十分な効果を発揮します。このスプレーは DIYショップやネット通販サイトで手に入れることができます。特別な作業は必要ありません。晴れた日に作業することが望ましい程度です。このように、剥げたメッキの補修は一般の方でも簡単に行えます。
ローバルスプレー

亜鉛溶融メッキスプレー(ローバルスプレー)
写真出典元:Rakuten

  
※貰い錆とは、他の錆やすい金属から錆をもらってしまうこと。例えば鋼製床の上で切断や溶接などの作業を行う際に鉄粉がメッキに付着し、錆を発生させる現象のことです。
例えば、ヘアピンな(鉄)を鋼製床に落として放置したことが原因で発生するもらい錆などもあります。
 
出典先:
ローバルスプレー|Rakuten
ローバルシルバー | ローバル株式会社 (roval.co.jp)

機械式駐車場鋼製平面化|15年毎に床板を張り替える必要があるのか?

実際には、15年で鋼製床の床板(鋼板)を張り替える必要があるのは、床材の厚みが薄いからです。つまり、床材の厚みが不十分な場合には、定期的な交換が必要となります。しかし、厚みのある鋼板を使用すれば、局部的な変形のリスクを最小限に抑えることができます。そのため、定期的な張り替えは不要になります。
もし誤って許容積載荷重を超える車両を駐車したり、何らかの不可抗力によって鋼板が凹んだり損傷した場合でも、損傷した部分の鋼板を交換するだけで対応できます。つまり、全ての床板を交換する必要はありません。
要するに、定期的な床板の張り替えは必要ありません。適切な厚みの鋼板を使用し、局部的な損傷があった場合にのみ交換すれば十分です。
床材の厚みの重要性については第41回コラムをご参照ください。
 
関連記事:
第41回:機械式駐車場の鋼製平面化 安全性を高める耐久性

機械式駐車場鋼製平面化で注意する点はボルトの緩み

鋼製平面化において最も注意すべきことは、ボルトの緩みです。ボルトの緩みは、平面化後のメンテナンスの必要性を左右する重要な要素となります。
ボルトが緩む原因は、薄い床材を小さなボルトで梁と直接締め付けていることにあります。例えば、 2トンの力で締め付けているとします。その場合、 1トンの車のタイヤ荷重がかかると、ボルトには 1トンの荷重と、タイヤが乗っていない時の 2トンの荷重が繰り返し加わります。その結果、ボルトが緩んでしまいます。また、小さなボルトと薄い鋼板は徐々に変形し始めます。ボルトの緩みについての詳細は、 第13回コラムをご参照ください。
ボルトが緩み構造

ボルトが緩むと、当然ながら定期的な締め直し作業が必要となります。しかも、この締め直し作業は工事業者に依頼する必要があります。このボルトの締め直し作業が、鋼製平面化後に最も重要な定期メンテナンスとなります。
鋼製平面化のメンテナンスにおいて最も重要なのは、床板のメッキの補修ではなく、ボルトの締め直しです。それにもかかわらず、ボルトの締め直しに関する情報はあまり公表されていないようです。これは本当に不思議なことです。
 
 
関連記事:
第13回:機械式駐車場撤去・平面化後のメンテナンスの必要性について

メンテナンスが必要ない機械式駐車場平面化

ノムラのマルチステージはメンテナンス不要

これまで、鋼製平面化後のメンテナンスが必要な場合や、自己対策が可能なケースについて説明してきました。そして、最後にノムラのマルチステージをご紹介いたします。マルチステージは鋼製平面化工法であり、その中でも「メンテナンス不要」という特徴を持っています。
 
第一に、マルチステージはボルトの緩みを防ぐ構造を採用しています。ノムラの方法では、床材を直接ボルトで締め付けるのではなく、鋏み金具を使用して床材を挟む仕組みです。これにより、荷重の変動が挟み金具を介して取り付ボルトに伝わらず、ボルトの緩みを防ぎます。また、床材の間には硬質ゴムが配置されており、局部的な変形を防止する役割を果たしています。つまり、ノムラの方法では、直接ボルトで締め付けることによる問題が解消され、挟み金具とゴムの組み合わせによって床材の安定性が保たれます。
ボルトが緩まない構造

梁に挟み金具が取り付けられている様子

梁に挟み金具が取り付けられている様子


硬質ゴム設置前

硬質ゴム設置前


次に、マルチステージでは、メッキが剥げても自分で補修ができることを最初からお客様に伝えています。
さらに、マルチステージで使用されている床板や鋼材は、一般の鋼材規格に基づいたものであり、 市場(鋼材を取扱っているホームセンターなど)から購入可能であり、穴あけ・溶接等の加工が一切なく、交換作業も行うことができます。
これらの要素が、マルチステージがメンテナンス不要を実現している根拠です。
 
 
関連記事:
第13回:機械式駐車場撤去・平面化後のメンテナンスの必要性について

まとめ

機械式駐車場平面化(鋼製平面化)は鉄骨建築です。そもそも鉄骨建築においては、鉄骨構造体自体にはメンテナンスが必要ないと言えます。しかし、機械式駐車場の業界では、メンテナンスによる収益化が一般的な慣習となっており、それが客先からの質問や業者の回答に影響を与えています。業者は機械式駐車場の修繕計画で学んだメンテナンスによる二度の利益を追求する傾向もあります。
確かに、駐車場の床材は薄板構造であり、※ゼロイチの荷重(第31回コラムを参照)に対応しています。ただし、タイヤが載る特定の床材を使用するという過酷な使用条件に耐える必要があります。このような状況下での対策も行わずに市場に出すことには問題があると考えます。
 
機械式立体駐車場業界のメンテナンスの問題について詳しくは「第16回:機械式駐車場業界の問題」をご参照下さい。
 
他にも、自社規格の床材を使用する場合があります。ただし、自社規格とは「そのメーカー独自の特注品」を指し、一般的に市販されている鋼材よりも価格が高くなります。また、自社規格の特注品を使用すると、もしメーカーが製造を中止した場合、床板の交換が難しくなるリスクもあります。
 
「使われなくなった機械式駐車場にかかる高額な維持管理費用の削減」は、平面化を行う主な理由の一つです。しかし、平面化後にも「メンテナンス有り」という考え方は、平面化の目的と矛盾していると言えます。
 
 
※「ゼロイチ荷重」とは、車が駐車しているか駐車されていないかによって重量が極端に変化することです。平面化後、駐車場は特定の車が常に駐車する場所として利用されます。特に、重い車が定められた場所に駐車すると、その場所は常に大きな重量を支えることになり、その特定の箇所の床板にだけ荷重が掛かり続けます。
 
一級建築士・機械式立体駐車場開発者
野村恭三
 
 
関連記事:
第31回:3段式機械式駐車場の平面化の特性と留意点
第16回:機械式駐車場業界の問題