コラム
機械式駐車場問題を考える

第50回:ノムラの機械式駐車場の平面化|工事工法・ランニングコスト・イニシャルコストについて

 

目  次

 はじめに|「どの工法も同じでは?」という誤解
 
1.工事工法|「床をどう支えるか」という根本的な違い
  ・一般工法との構造的な違い
  ・マルチステージの「合成床構造(特許)」
 
2.ランニングコスト|「なぜボルトが緩まないのか」
  ・板バネ構造(特許)によるボルト緩みの解消
  ・荷重分散と耐用年数
  ・補修部材は一般流通品を使用
  ・自然換気・自然採光でピット内を清潔に保つ
 
3.イニシャルコスト|「高い」のではなく「長期で安い」
 
 結び|平面化工事で本当に考えるべきこと
  ・自分たちの手で護り、次世代へ受け継ぐ

はじめに|「どの工法も同じでは?」という誤解

皆さん、こんにちは。
機械式駐車場の平面化をご検討中の管理組合の皆様から、最近とくに多く寄せられるご質問があります。
「マルチステージの工事工法は、他と何が違うのですか?」
「ランニングコストは本当にかからないのですか?」
「初期費用は高いのでしょうか?」
どれも、非常にまっとうな疑問です。そしてこれらの質問には、共通するある前提が隠れています。それは、「平面化工事は、どの工法を選んでも大きな違いはないのではないか」という感覚です。
しかし実際には、工事の考え方や構造のつくり方によって、将来の管理負担や安心感には大きな差が生まれます。今回は、実際にお客様から寄せられたご質問をもとに、「工事工法」「ランニングコスト」「イニシャルコスト」を一つの流れとして整理してみたいと思います。

1.工事工法|「床をどう支えるか」という根本的な違い

完成後の見た目だけを見ると、鋼製の平面化工法はどれも似て見えるかもしれません。しかし、マルチステージは「床をどう支え、建物とどう一体化させるか」という根本的な考え方が異なります。
 

一般工法との構造的な違い

一般的な鋼製平面化工法では、「既存のコンクリートピットの中に柱と梁で鋼製の構造体をつくり、その上に床材を乗せる」という構成が多く見られます。この場合、鋼製の構造体とコンクリートピットという、二つの構造体が別々に存在する状態になります。
地震が発生すると、建物や構造体にはそれぞれ固有の揺れ方(固有周期)があります。コンクリートピットの固有周期は短く、鉄骨(鋼製床+柱)の固有周期は長いという性質があります。この違いにより、地震時に二つの構造体がぶつかり合うリスクが生じます。機械式駐車場を撤去した後のピット上部は、この衝突で損傷につながる恐れがあります。
 
地震発生時の耐震補強構造の比較

 

マルチステージの「合成床構造(特許)」

一方、マルチステージでは、梁・床材・既存のコンクリートピット、そしてそれらを接合する部材を「一体の構造体」として成立させる「合成床構造(特許)」を採用しています。
この考え方は、自動車のモノコック構造と同じ発想です。一部の部材に力を集中させるのではなく、構造全体で荷重や外力を受け止める。だから、地震時にも鋼製床とコンクリートピットが一体として揺れ、ぶつかり合うことがありません。
機械式駐車場を撤去した後のコンクリートピットは、ちょうど「注ぎ口を全開にした空の牛乳パック」のような状態です。注ぎ口が開いたままでは、外から少し力を加えただけで歪み、潰れてしまいます。マルチステージの合成床構造は、その牛乳パックに頑丈な蓋をするような役割を果たし、ピット全体の剛性と耐震性を高めます。
 
合成断面構造|合成床構造(特許)

 
 
この構造の詳細については、 第15回コラム「合成断面構造とは何か」、および 第19回コラム「マルチステージが成立する構造的理由」でもご紹介しています。また耐震性については、 第8回コラム「柱がない平面化 マルチステージの特徴」第36回コラム「平面化の耐震性|ピット補強と建物の耐震強靭化」も参考になります。

2.ランニングコスト|「なぜボルトが緩まないのか」

駐車場の床は、車が載ると約 23トン、車が出るとゼロという、非常に激しい荷重変動を日常的に受け続けています。しかも、タイヤの軌道部だけの集中荷重です。この繰り返し荷重に対して、床の構造が弱いと、床材の変形やボルトに掛かる繰り返し荷重の変化で歪みや緩みが少しずつ蓄積していきます。
 
床板設置方向と床板の変形との関係
 
一般的な工法では、梁と床材を直接ボルトで締め付けています。たとえば M10mmのボルトを定格 3000kgで締め付けても、 1000kgの車が載るたびに締め付け力が変動し、入出庫を繰り返すうちにボルトが少しずつ緩んでいきます。緩んだボルトは当然、締め直しが必要です。それに加え床材も変形していきます。これが鋼製平面化後の主なメンテナンスの原因となります。
 
車入出庫の荷重変化によるボルトの緩み

 

板バネ構造(特許)によるボルト緩みの解消

マルチステージでは、床材と梁の接合部に「挟み金具による板バネ構造(特許)」を採用しています。この構造により、ボルトに直接伝わりません。さらに床材間に配置した制振・防振ゴムが微細な動きを吸収します。
競合他社が「ボルトが緩まないことはありえない」と説明する場合がありますが、それは従来型の直接締め付け構造を前提とした話です。マルチステージは構造の思想そのものが異なるため、同列には語れません。
 

荷重分散と耐用年数

マルチステージは床材を横方向に敷き詰める工法を採用しています。車の入出庫時に生じる移動荷重を、横方向に敷き詰められた約 25本の鋼材床板が分担して受け止めるため、特定の床板だけに荷重が集中しません。荷重が「点」ではなく「面」で分散されることで、局部的な変形やワダチが起こりにくく、結果として床の耐用年数が長くなります。
 
荷重の分散と耐用年数

 

補修部材は一般流通品を使用

万が一、床材の交換が必要になった場合でも、マルチステージは市販の規格鋼材をそのまま使用できます。ホームセンターやネット通販でも購入可能なため、将来的な供給停止のリスクがなく、交換費用も一般市場価格で賄えます。しかも穴あけ加工、溶接加工が一切ありません。床材の長さを伝えるだけです。他社の多くが自社規格の専用部材を採用しているため、交換時はメーカーからの直接購入になり割高になる点とは、大きく異なります。
 

自然換気・自然採光でピット内を清潔に保つ

床材に設けられた約 5mmの隙間により、ベルヌーイの定理を応用した自然換気・自然採光が働く構造となっています(特許取得)。床上に風が吹くと外気圧が下がり、床の隙間からピット内の空気を吸い上げます。これにより雨天翌日でもピット内がすぐに乾き、湿気やカビ、害虫の発生を抑えることができます。
 
ピット内が良く乾く(自然採光・自然換気)

 
ボルトの緩みの仕組みについては 第13回コラム「なぜボルトは緩むのか」、メンテナンスフリーの根拠については 第42回コラム「なぜマルチステージはメンテナンスフリーなのか」で詳しく解説しています。荷重分散については 第18回コラム第31回コラム、自然換気については 第5回コラム「ピット内部の湿気と衛生環境」も参考になります。

3.イニシャルコスト|「高い」のではなく「長期で安い」

マルチステージのイニシャルコストは、他社の鋼製平面化工法と同程度です。極端に安いわけでも、高額になるわけでもありません。
ただし、将来の補修を前提としない構造設計、専用部材に依存しない汎用鋼材の採用、浸水被害を受けにくい柱のない構成 ——これらの考え方を最初の工事段階で織り込んでいる点が大きな違いです。
平面化後に定期的なボルトの増し締め工事が必要になる工法、床板張り替えを前提とする工法と比較すれば、長期的なトータルコストは最も低い工法と言えます。工事当初の価格だけでなく、 10年後・ 20年後の維持管理コストを見据えて選択することが、管理組合にとって本当に大切な視点ではないでしょうか。
 
メンテナンスフリー比較表

<スライド26|メンテナンスフリー比較表(他社との比較)>
 
浸水リスクと柱腐食の問題については 第24回コラム「浸水被害と機械式駐車場平面化」でも詳しくご紹介しています。

結び|平面化工事で本当に考えるべきこと

使われなくなった機械式駐車場を撤去し、平面駐車場として再生する。この行為は、単なる設備更新ではありません。地下ピットという弱点と向き合い、建物をこれからも安全に、そして長く使い続けるための重要な判断です。
工事工法の違い、ランニングコストの差、イニシャルコストの考え方——これらは互いに独立した話ではなく、「構造をどう設計するか」という一本の軸でつながっています。マルチステージが大切にしているのは、建物と一体として機能する構造、管理に手を掛けすぎなくても安心できる設計、そして将来世代へ負担を残しにくい考え方です。
 

自分たちの手で護り、次世代へ受け継ぐ

平面化工事を終えたあとも、管理組合の皆様が主体となって使い続けられること。万が一、補修や調整が必要になった場合でも、特定の専門業者に依存せず、一般市場で入手できる部材と知識で対応できること。そうした状態をつくることが、私たちが「永続性」と呼ぶものにつながると考えています。
建物を護るということは、そこに暮らす方々の家を護り、生活を護り、その地域を護ることでもあります。日本が古来より大切にしてきた「モノを大切にする精神」——作りっぱなし、使いっぱなしではなく、今あるものを丁寧に維持し、次の世代に受け継いでいく。その意識こそが、安心できる暮らしと地域の循環を生み出す力になると、私どもは考えています。
自分たちの手で自分たちの建物を護れるということは、永続的に建物を護り続けられるということです。永続性があるからこそ安心が生まれ、その安心が次の世代へと受け継がれ、建物と地域が循環し、未来が明るくなる——マルチステージはその考え方を、構造と技術の両面で実現しようとしています。
今回のコラムが、平面化工事をご検討中の皆様にとって、少しでも判断のお役に立てれば幸いです。
 
この考え方については、第47回コラム「機械式駐車場の平面化とはまちづくり」でも詳しくお伝えしています。
 
 
一級建築士・機械式駐車場開発者(代表取締役社長)
野村 恭三