第46回:機械式駐車場の固定化|固定化工法の経済合理性と注意点
はじめに
機械式駐車場の撤去や平面化工事にはさまざまな選択肢がありますが、その中でも固定化工法は、コスト削減と工期短縮を目指し、費用対効果に優れた工法です。
本コラムでは、固定化工法について解説し、固定化工法の経済合理性について述べ、固定化工事の注意点と他の工法との違い、そしてノムラが提供する固定化工法の特徴について詳しく解説します。
固定化工事とは?
固定化工事の最大の特徴は、鋼材床を用いた平面化工事に比べて、費用が低く、施工日数も短い点で魅力的です。しかし、ここで強調しておきたいのは、固定化工事は製品化されていないという点です。鋼製平面化工事のように標準化されたプロセスではなく、各現場の状況に応じたオーダーメイドの対応が必要です。
固定化工事が求められる理由
機械式駐車場を完全に撤去するには多くのコストや時間がかかるため、固定化工事は以下の理由で選ばれることが多いです:
・将来的に全面撤去や平面化を希望するが、現在は予算が足りない。
・使われなくなった機械式駐車場の管理・維持費を削減するために、暫定的に固定化する。
・予算があっても、平面化に費用対効果を感じない。固定化を暫定的と考えないハッキリした意志の方がいる。
近年の固定化工法の新たな傾向
しかし、近年ではお客様のニーズに大きな変化が見られます。特に、以下の2つの理由から、固定化工法を選択するケースが増加しています。
・「予算があっても、平面化に費用対効果を感じない。」
・「固定化を暫定的な対処法ではなく、明確な選択肢として決断される方が増えている。」
このような背景には、「平面化が抱えるジレンマ」を理解した上で、固定化工法の経済的合理性を評価する方が増えていることが挙げられます。特に、平面化に伴うコストに見合わないと判断し、より合理的な固定化を選ぶ意識が高まっています。
固定化がもたらす経済合理性
機械式駐車場を平面化(鋼製平面化)する際には、費用対効果についてのジレンマが生じます。平面化を行っても、固定化を行っても、最終的に駐車できる台数は同じ台数であるにもかかわらず、鋼製平面化はすべてのパレットを撤去し、さらに鋼製床を設置する必要があるため、費用が高くなりがちです。
一方、固定化では、パレットの状態が良好であれば、全てのパレットをそのまま残すことも可能です。ただし、この場合でも最低限、駐車パレットとその他の地上段のパレットは耐震対策として必ず固定する必要があります。
固定化のメリット
1.撤去費用の削減
機械式駐車場全体を撤去する必要がなくなるため、撤去費用が大幅に削減されます。
2.鋼材費用の削減
鋼製平面床などの鋼材にかかる費用が抑えられます。
3.既存設備の再利用
機械式駐車場に設置されていたゲートなどの設備は、制御盤を取り換えることで引き続き使用可能です。このメンテナンスについては、機械式駐車場専門業者でなくとも、町の電気業者(電気工務店)に依頼することができます。なぜなら、固定化された駐車場は機械式としての機能を失い、単なる平置き駐車場となるため、従来のような専門的な保守点検やメンテナンスが不要になるからです。
固定化のデメリット
1.景観の変化が少ない
駐車パレットがそのまま残るため、固定化前と比べて景観に大きな変化がありません。
※地上面のパレット以外、撤去する方法もあります。
2.耐震性の問題
耐震性と耐久性に関しては、鋼製平面床(マルチステージ)に比べて劣る点が挙げられます。
リスクについて
地下段のパレットについては、固定化しなくても運用可能ですが、リスクを承知の上で判断する必要があります。もちろん、地下段のパレットも固定化する方が望ましいですが、万が一、地震時に地下段のパレットが落下したとしても、地上段のパレットは耐震対策として必ず固定するので、基本的には安全に駐車場として利用し続けることは可能です。
固定化工法の注意点
固定化はすべてオーダーメイド対応
固定化工法の最大の特徴は、全てがオーダーメイドであるという点です。鋼製平面化工法では、機械式駐車場を完全に撤去し、頑丈な鋼製床を設置する標準的な手順が存在します。しかし、固定化工法は、製品化されていないため、現場ごとの条件に応じて工法が異なります。
例えば、駐車場の機種やピットの形状、強度によって、使用する固定化の手法が大きく変わります。
このように、固定化は製品化された工法ではなく、すべての現場で異なる解決策が必要です。この柔軟性と現場ごとに設計が異なる点が、他の平面化工法とは大きく異なるポイントです。
パレットとピットの一体化には高度な技術力が不可欠
ブラケット金具でパレットを固定
固定化は標準化されたプロセスではなく、現場ごとに適合させるオーダーメイド方式です。駐車場の仕様や構造によって、どこに、どのように固定するかが異なり、その判断は非常に重要です。これを誤ると、特に地震時に深刻な危険が伴います。そのため、パレットとピットの一体化には技術力が不可欠であり、安全性を確保するためには慎重な対応が求められます。
このように、固定化には高い技術力と現場ごとの柔軟な対応が必要であり、安全性を維持するためには機械式駐車場の構造の専門的な知識と経験が不可欠です。
固定化工法は機械式駐車場業界全体で広く提供・推奨されているわけではありません。これは、固定化が平面化よりも高い技術を必要とし、平面化メーカーにとっては標準化されていないため、ビジネスとして人員や技術的な負担が大きく、「採算が合わない」と敬遠される傾向があるためです。
しかし、安価な固定化の市場ニーズは高く、技術力が不足し、安全性が軽視された固定化が実際に存在しています。たとえば、安易な溶接や柱を設置してパレットを固定するなど、耐震性や将来的な利用を考慮していない固定化工法が見受けられます。固定化に関する情報がインターネットや広告、管理会社からの提案で少ない理由としては、固定化を手がける業者が必要な技術と専門知識を持たず、安全性を確保できないため、大々的な宣伝ができないことが挙げられます。固定化は主に機械式駐車場関連業者や管理会社の営業活動を通じて情報交換が行われていると考えられます。
ノムラが提供する固定化工法の特徴
駐車パレットとコンクリートピットを一体化させる
全ての固定はブラケットとボルトを使用
ブラケット1
ブラケット2
駐車パレットにブラケットを使用してピットを直接固定することで、ピットと一体化させ、地震に強い構造を実現しています。パレットとピットを一体化する理由は、地震時に両者が衝突するのを防ぐためです。
もし、駐車設備の柱にパレットを固定した場合、「ピット」と 「パレット+柱」という 2つの異なる構造物が存在することになります。これらはそれぞれ異なる固有周期(揺れの特性)を持つため、地震発生時に互いに衝突する可能性があります。このため、柱を利用してパレットを固定するのではなく、パレットをコンクリートピットの四面に直接固定し、 1つの構造物として一体化することが、耐震性を高めるために非常に重要です。
固定化工事で地震時のリスクを減らし、将来的な全撤去を想定したノムラの固定化工法は
理にかなった工法です。
※平面化工事における地震対策(固有周期の重要性)に 「第8回:柱がない平面化|マルチステージの特徴」をご参照ください。
固定化の耐震対策
【関連記事】
コラム「第8回:柱がない平面化|マルチステージの特徴」
全ての機種で固定化工法が可能なわけではない
全ての機械式駐車場が固定化工法に適しているわけではありません。まず、固定化工法の対象となるのは屋内に設置された機械式駐車場です。屋外の機械式駐車場でも固定化は可能ですが、その際にはいくつかのデメリットやリスクを認識した上で、適切な対策を講じる必要があります。また、一部の油圧式機械式駐車場も固定化には不向きです。
固定化工法を実施するためには、特に車両が駐車する既存の駐車設備のパレットの状態が良好であることが重要です。ここで言う「状態の良いパレット」とは、サビや腐食がないことを指します。この条件を満たすためには、屋外に設置された機械式駐車場では、雨や雪などの天候による影響でパレットが錆びたり腐食したりする可能性が高く、屋内の駐車場と比べてパレットの寿命が短くなる傾向があります。屋外設置の機械式駐車場において固定化を検討する際には、設置環境によってパレットの耐用年数が大きく異なることを考慮する必要があります。そのため、固定化の判断は、実際のパレットの構造を確認した上で行うことが重要です。
※パレットの寿命について詳しくは「第44回:機械式駐車場の寿命の延長」をご参照ください。
さらに、一部の油圧式機械式駐車場(例:昇降二段式)では、油圧シリンダーと上下段のパレットが一体化していることがあり、上下段のどちらか一方を撤去して他方を残すことが困難です。また、一部の油圧式駐車パレットは構造上、パレットとピットを固定する箇所がほとんど存在しないため、一部の油圧式機械式駐車場も固定化工法には適さないと言えます。
このように、機械式駐車場の設置場所や機種によって、固定化工法の適用には適している場合とそうでない場合があります。
【関連記事】
第44回:機械式駐車場の寿命の延長
まとめ
固定化工事は、コスト削減や工期の短縮を可能にする一方で、製品化されていないため、現場ごとのオーダーメイド対応が不可欠です。また、ノムラの固定化工法は、将来の平面化や再設置の可能性を考慮し、耐震構造を考慮した設計と安全対策となっております。
ノムラが提供するこの独自の固定化工法は、機械式駐車場の現実的な選択肢として有効です。
一級建築士・機械式駐車場開発者
野村恭三