第28回:機械式駐車場入れ替え工事はなぜ高いのか?
機械式駐車場入れ替え工事と機械式駐車場業界との関係
お客様の要望に沿わない提案をしてくる、機械式駐車場メーカーの心情とは
皆さんこんにちは。
今年(令和2年)に入り、私たちの所に、機械式駐車場の入れ替え工事に関する相談が増えて参りました。
主な相談内容としては、お客様(マンション管理組合)が望んでいない、機械式駐車場入れ替え工事、入れ替え工事の必要性の有無についてです。
今回は、機械式駐車場入れ替えの価格構成と機械式駐車場業界の関係を踏まえながら、「なぜ機械式駐車場入れ替え工事は高いのか?」について解説致します。
相談内容
自分達のマンションは築20年近く経ち、機械式駐車場入れ替え工事を間もなく迎える時期に差し掛かかっている。
今日の機械式駐車場の使用状況は、車を所有する住人が減り、機械式駐車場の使用台数も半数近く空きの状態である。使わなくなった機械式駐車場にメンテナンスの維持・管理コストを掛けるのは勿体無いので、一部の駐車場の使用を中止し、平置きの駐車場として利用している。
入れ替え工事を迎えるにあたり、業者に現在の機械式駐車場の使用状況と、機械式駐車場の一部撤去・平面化工事を依頼したら、高額な入れ替え工事費用の見積書が提示され、一部内容が不明だったので説明を求めたが、ちゃんとした説明が返って来なかった。
提示された、見積書の内容の妥当性について我々住民は、素人なので判断できずに困っている。
そこでノムラさんに、業者側が提示した提案・見積内容の妥当性についての意見を聞き、同時に機械式駐車場撤去・平面化工事についても相談したい。
相談内容から読み取れる問題点
相談・依頼内容をまとめると、
①業者側から住民(管理組合)側の要望に沿った提案・見積が出されない
②見積・提案書に記載されている入れ替え工事、撤去・平面化工事の内容が不透明で素人では判断できない
③長期修繕計画の中で機械式駐車場にだけ、高額(1億円、2億円…)な工事費用を管理組合としては予算を組めない
これら3つの問題点を読み解いていく事で重要なのは、冒頭でもお伝えした通り、「機械式駐車場の入替工事の単価は高い」という点であります。
入れ替え工事の価格構成を理解するには、機械式駐車場業界との関係が大きな要素になります。その仕組みについて解説致します。
入替工事を優先的にできる業者
入替工事を優先的にできる業者とは、建設会社に新築時納品した機械式駐車場メーカーの事を指し、入替工事時もそのメーカーがプライオリティーを有します。
ここで言う「プライオリティー」の意味は、お客様が指定するものではなく、あくまで機械式駐車場メーカーの業者間同士の慣例のようなものです。
機械式駐車場の入替工事の価格は新築時に納品した時と比べおよそ1.5倍〜2.0倍に設定されます。
プライオリティーを有する業者は(大手機械式駐車場メーカー)は他業者が納品した製品の入替工事に関与しません。一部の大手以外のメーカーは見積を提出する場合があります。
しかし、プライオリティーを有するメーカーが提示する単価はある程度、他の業者も分かっているので、それを少し下げた価格でしか見積を出しません。
つまり、それ以上、価格は下がらないので入替工事の費用は高いものとなります。
入れ替え工事の価格は市場が決めるのではなく、業界の慣例で決まるのです。残念ながら、これが機械式駐車場業界の現状です。
機械式駐車場業界は2000年代初頭から、ずっと下げ止まりで、途中マンションの建設ラッシュが続いた時期でも新規設置で恩恵をあまり受けていない業界であります。特に機械式駐車場は一般の人から分かりにくい、特殊な機械でありますから、お客様の「分からない」につけ込み内容が不透明な提案でお客様の不安を煽り、推し進めるという事もあり、私共の所にも多く相談が寄せられています。
また、機械式駐車場業界は業者間の馴れ合いで、お客様に提案・見積を提示する事もありますが、相見積という手間のかかる事はしないで辞退する場合が多いようです。
ここまで来ると、お客様のニーズに沿った提案というより、業者間の都合をまとめた提案と言っても過言ではありません。そうなると、お客様の要望を聞き入れる余地は大幅に減ります。
自分達の要望に沿った提案をしてくれる業者を探すポイント
自分達の要望に沿った提案をしてくれる業者を探すポイントとしては、
①提案・見積・部品交換時期・入替時期が自分達の要望に沿っているか
②提案・見積・部品交換時期で分からない点があった際、その業者は技術的根拠に基づいた説明ができるか
③自分達が気づいていない、課題と問題点をちゃんと技術的観点から整理ができ、提案できるか
④自社製品を提案しているのか?(他社から持ってきているようであれば、そこで無駄な値上がりになります)
①と②出てきた「交換時期」ですが、技術的根拠に基づいているかが、お客様にとって判断の要となります。なぜならば、この交換時期の設定の多くが業者都合の場合が多いからです。
例えばチェーン交換の場合、機械式駐車場が設置されている場所が屋内か屋外でチェーンの耐久性は違います。屋外だとチェーンは雨風にさらされているので、錆びますし定期的な交換(年単位)は必要です。しかし、屋内の場合は、屋外と比べて雨風にさらされる頻度は低くなり、チェーンの寿命も屋外と比べ屋内の方が長くなります。もし、機械式駐車場が屋内にも関わらず業者が「チェーンが錆びているので交換は必要だ」と言ってきたら、適切なメンテナンスが行われていない可能性があり、メンテナンス会社側の責任と考えます。
(第11回「機械式駐車場の適切なメンテナンスとは」、第16回「機械式駐車場業界の問題」もご参照下さい)
いずれにしても、入替工事はスケジュールありきではなく、各々の部品の寿命より(全体の入替工事をするにしても)総合的に判断して、入替時期を決めることになります。
しかし「屋内の機械式駐車場に全体入替工事が必要なのか?」という疑問があります。
以上4つのポイントを判断基準にしてみてはいかがでしょうか。
今回は「機械式駐車場入れ替え工事はなぜ高いのか?」をテーマにお客様と業者間のやり取りについてお話しさせていただきました。
令和の時代も2年目に入り、COVID19(コロナウイルス)が世界中で猛威を振っている中、この新しい時代に弊社の存在意義について、深く考える日々を送っておりますが、そんな中、
「必要とされる」
「共感される」
この2つが、今弊社にとってこの混沌とした新しい時代を生きるキーワードではないかと思っております。
自分(達)が生き残る策ばかり講じていては、搾取以外にほかなりません。
そうならない為にも、また少しでも社会が良くなっていく為にも、ノムラは「使われなくなった機械式駐車場問題」について情報発信を続け、お客様から共感を得て、必要とされる存在でいたいと思っております。
一級建築士・機械式駐車場開発者
野村 恭三