第27回:建物を危険にさらす機械式駐車場の平面化
機械式駐車場ピットの一部が建物と共有していたら要注意
みなさん、こんにちわ。 突然ですが、皆さんの建物(ビル・マンション)と機械式駐車場の位置との関係を気にしたことがありますか?
おそらく、ほとんどの人が気にしたことがないと思います。しかし、機械式駐車場撤去・平面化を考える際は建物と機械式駐車場の位置関係は気にしなければなりません。
本コラムでは、機開式駐車場のピットが建物本体(マンション・ビル)に一部接している際、平面化工事で注意しなければならない点についてご紹介致します。
機械式駐車場を平置き駐車場化する際は建物本体を守ることが最優先
埋め戻し工法をしてはいけない
建物本体と駐車場ピットが接している場合、平面化工事を行う際、埋め戻し工法はできません。埋め戻しを行なった際、駐車場ピットにかかる荷重は設計荷重の10倍相当になります。さらに、駐車場ピットが建物本体と共有しているのであれば、建物本体にも荷重が掛かり大変危険な状態になります。(詳しくは「埋戻しの危険性」をご参照ください)
たとえ、マンションやビルの立地の地盤が良くても、このような場合は、埋め戻し工法を用いることは大変危険です。
鋼製平面化工法も注意が必要
鋼製床による工法を用いる場合も設置方法に注意が必要です。先ず、建物と駐車場ピットが接している状態について解説致します。
建物と駐車場ピットが一部共有している状態とは、駐車場ピット四方の一辺(一方向)が建物の一部になっている状態のことです。下記の写真とイラストをご覧ください。
写真は機械式駐車場の後ろ側が建物本体となっております。イラストは駐車場ピットと建物が接した状態を表しています。イラストをご覧の通り、コンクリートピットの形状は四角形ではなく、カタカナの”コ”の字になっております。
建築物を守る対策「半固定」
「柱がある場合の鋼製床と駐車場ピットの固有周期は異なり、地震の際、鋼製床と駐車場は互いにぶつかり合い、破損する。しかし、柱のない鋼製床(マルチステージ)は、鋼製床を駐車場ピット開口部を四方向に固定することにより、駐車場ピットと一体化させます。それにより、駐車場ピットと鋼製床の固有周期を同じにする事によって、地震の際、鋼製床と駐車場ピットがぶつかり合わない。」(詳しくは 第8回:柱がない平面化をご参照下さい)
もし、駐車場ピットが建物に接している場合、柱がある鋼製床は直接建物にぶつかり、損傷を与えます。つまり、地震の固有周期の観点から、駐車場ピットが建物に接している場合は、柱のある鋼製床を採用した際、地震時に建物本体を損傷させるリスクが高まります。
建物と接している面と鋼製床の接合部に弾力性を持たせる
合成断面については、 第15回:鋼製床の敷き方によって耐震強度は左右する。
機械式駐車場撤去後の駐車場ピットは脆弱については、 第19回:機械式駐車場撤去後のピットは脆弱をご参照下さい。
しかし、駐車場ピットの一部が建築物壁と共有している状態で、合成断面構造の鋼製床で頑丈に固定し過ぎても地震の際に建築物が破損してしまう要因に成りかねません。駐車場のピットより建築物が大事なのは言うまでもありません。
このような場合、建物の壁と鋼製床を「半固定」するのベターな解決方法であると思います。「半固定」することにより、少し剛性は弱くなりますが、地震時に建物に受ける力を和らげるという意味です。わかりやすく言うと衝撃を和らげるクッションのような役割です。
下記のイラストは鋼製床を半固定したものと固定したものです。
【鋼製床(床梁)と建築物壁を半固定した場合】
建築物壁側の固定金具(ブラケット)を半固定仕様にすることにより、クッションのような役割となり、建築物壁の 負担を少なくします。
【鋼製床(床梁)と建築物壁の両方固定した場合】
床梁が両側から固定され、地震時の揺れの力を直接床梁に受け、建築物壁に 負担がかかります。
まとめ
駐車場ピットの一部が建築物壁と共有している機械式駐車場は意外と多いと思います。昨年から私どものところにも多くこのような案件のご相談、ご依頼が寄せられるようになりました。機械式駐車場の入れ替え工事では問題はありませんが、平面化工事を検討される際は、見落としがちなポイントでもありますが、建物を守ると言う観点ではとても重要なポイントです。
機械式駐車場の撤去平面化工事を検討する際、「自分達のマンション(商業施設・ビル)の機械式駐車場はどこに、どのように設置されているか?」現状を把握することが大事ではないかと思います。
一級建築士・機械式駐車場開発者
野村恭三