コラム
機械式駐車場問題を考える

第39回:屋内地下機械式駐車場の鋼製平面化の特性と注意点

見落とされる平面化工事の安全性

機械式駐車場平面化の本質的な課題と目的

・脆弱になったピットの補強
・耐震補強
・建物を守る

屋内の機械式駐車場を鋼製平面化する際に気をつけなければならないのは、駐車場内の路面にできたヒビです。このヒビはコンクリート床版の水平耐力の衰えの現れで、平面化する際は、耐震補強が必要になります。

屋内駐車場を利用する際に、駐車場内の路面のひび割れに気づかれたことはありますか。そして、そのひび割れが「なんでできたのか?」と疑問に思った事はありませんか。おそらくほとんどの人は「気づかない」、もしくは「古くなったから」程度にしか思わず、何も気にせずに利用し続けていると思います。 しかし、マンションや商業施設・ビルの屋内にある機械式駐車場を撤去・平面化を考えているのであれば、このひび割れには注意が必要です。本コラムでは、屋内(機械式)駐車場の路面にできたひび割れについて、「何が原因か?」、「どのような危険が潜んでいるか?」、そして「これらの対策はあるのか?」について解説いたします。


屋内機械式駐車場の平面化工事の目的と本質

屋内にある機械式駐車場の場合は、もともと重要な基礎の部分(地下駐車場の場合は地階、地下階が無ければ地上階)に穴が開いていて、建築物は構造上弱い構造になっています。

<地下階 屋内駐車場> 

 

<地上階 屋内駐車場>

平面化工事の目的は機械式駐車場を撤去した跡地を自走式駐車場化することだけではありません。平面化工事の目的は、建築物で重要な基礎部にあるコンクリートピットの補強もあります。特に路面にひび割れがある建築物では重要です。


屋内駐車場路面のひび割れが入るメカニズム

多くの路面はコンクリート床版で、下は空洞になっています。
交通量が多い又はコンクリート床版が薄いため、車の鉛直荷重でひび割れが発生します。
地震が発生し、横揺れ(水平力)でひび割れが大きくなります。
これを繰り返す事でコンクリート床版の水平耐力は低下し、地震に耐えられなくなります。その結果、コンクリート床版は(割れたクッキーのように)ガレキ化する場合があります。
私の経験では、厚さ250mmでひびが入っており、160mmでは壁までひび割れが続いています。
両側に駐車設備がある設計の場合、床全体面積の1/3 の路面にひび割れが発生し、両側2/3の駐車設備が入った穴がある状態となり、水平耐力が低下します。

<通路にひび割れ無し・両側駐車設備設置>



<通路ひび割れ有り・両側空洞の状態> 

 
そこで両側の駐車設備を平面化する時、平面剛性が高いマルチステージで補強する事は耐震補強に有効です。

<某マンション 駐車場通路ひび割れ図>



<駐車場通路 ひび割れ 参考写真>



<駐車場通路 ひび割れ 参考写真>


マルチステージと耐震補強の関係性

なぜマルチステージが、屋内駐車場の路面のひび割れに有効なのか。
路面のひび割れがひどくなるとコンクリートの塊が鉄筋に数珠みたいに、ぶら下がった状態になります。数珠玉は引っ張られても耐えますが、コンクリートの塊は壊れていきます。しかも露出した鉄筋は錆びて膨れてコンクリート塊は剥げていきます。更にその上を車が通行し続ければ危険な状態になります。
 
マルチステージはひび割れに直接有効ではありませんが、地震の横揺れで屋内駐車場やその床が一気に破壊するのを弱める効果があります。

<マルチステージ設置>


まとめ

本来は路面自体を修理するのが最適です。しかし、これらの工事には多額の工事費が掛かるので、マルチステージを設置して、地震による横揺れによる路面のガレキ化の進行を遅くする効果があります。
街で窓枠等に耐震補強してあるのを見かけますが床面の水平耐力補強は既存建築物では難しく、駐車場平面化工事を行う際に水平耐力補強を施すのはいい機会ではないでしょうか。
 
 
一級建築士・機械式駐車場開発者
野村 恭三