第32回:その部品交換必要?機械式駐車場の修理工事にまつわる話
修理工事は交換工事
その部品交換、本当に必要?
マンションにおける機械式駐車場の維持費は掛かります。しかも建物の大規模工事と並んで機械式駐車場の大規模修繕工事は高額の費用となります。 そこで、「修理工事編」「メンテナンス編」「交換工事編(大規模修繕計画)」の3回に分けてコラムにしていきそれぞれのテーマについて解説して参ります。今回は「修理工事」について解説致します。
「修理工事」は主に部品の交換の事を指します。この部品交換の必要性・透明性は管理組合の方が最も知り得たい情報の一つだと思いますが、如何せん内容が専門的で分かりにくい部分であります。今回は、部品交換で最も多い「チェーン交換」、「リミットスイッチ交換」、「落下防止装置交換」、について解説します。
「経年劣化」は曖昧
チェーン交換について
まず、吊りチェーン、バランスチェーン等に使用されるローラーチェーンについて解説します。
「経年劣化」は曖昧
「経年劣化によるチェーンの交換を要します」とよくメンテナンス報告書等に記載され、目にする事があると思いますが、これは曖昧です。機械式駐車場メーカーの言う耐用年数も根拠が曖昧です。しかも屋内・屋外を区別していない場合が多いと思います。
(屋内・屋外によって使用環境が異なり、チェーンの耐用年数も違います。)
チェーン交換はいつするのか?
機械式駐車場メーカーは計測値を管理組合に提出していないと思います。おそらく交換要求の多くのケースで規定値まで伸びてないと思います。
また、手間はかかりますが伸びた部分交換という手段もあります。
【ローラーチェーン測定の様子】
チェーンの伸び・摩耗の測定作業は簡単で、市販されているチェーン摩耗測定スケールを使って測定します。
【チェーン摩耗測定スケール】
<通販サイト「モノタロウ」より引用>
チェーン摩耗測定方法:
<株式会社椿本チエイン「チェーン摩耗測定スケール」より引用>
チェーンの錆、キンク(固着)は立駐メーカーもしくはメンテナンス業社にやって貰う
ローラーチェーンのもう一つの問題が錆、キンクです。
機械式駐車場メーカーが提案してきたメンテナンス回数でそのままメンテナンス契約しているのであれば、当然錆、キンクを修復して貰う事です。
チェーンのピンは数ミリの直径です。ピンが錆びたら細くなりガタがでます。上記の部分を修復して伸びを再計測し規定以上になれば機械式駐車場メーカーに責がありチェーン交換してもらう事です。
チェーンの交換費用は高値なので納得のいくようにされた方がいいと思います。
リミットスイッチ交換について
【オムロン 小型リミットスイッチ D4C】
「交換時期が来たので交換を要します」という文言、これも説得力がありません。
例えばオムロンD4C等、機械的耐久性1000万回より電気的耐久性20万回〜30万回以上(メーカーカタログより)、昇降横行式は横行移動の頻度が高いので
1日20回動かしたとすると、200000回/20回/365日=27年〜40年以上が交換時期となります。
<オムロン株式会社「小型リミットスイッチD4C カタログ」より引用>
昇降は入出庫パレットだけが稼働するので1日3回入出庫したとすると、
200000回/6回/365日=約90年以上
昇降用リミットスイッチは横行用リミットスイッチの1/3程度の使用回数になる事を覚えておいて下さい。
また、環境の影響(例:塩害など)が発生する場合などは耐用年数が短くなります。その時も機械的耐久性、電気的耐久性を目安にすると良いと思います。
リミットスイッチはあまり高値ではないので交換しても良いと思いますが、部品はマンションに現物があるので部品メーカー及び型番が分かると思いますので、機械式駐車場メーカーに部品メーカー名及び型番と耐久性を見積に記入して貰う事です。
落下防止装置交換について
【落下防止装置】
【パナソニック製ソレノイド:AS10222】
構成は鋼製のパレットを支えるツメとマイクロスイッチ又は近接スイッチとツメを引く電磁ソレノイドで構成されています。
落下防止メーカーは具体的に耐久性を公開してないようですが、
ソレノイドの耐久性50万回以上、
マイクロスイッチの電気的耐久性で50万回以上とすると、
1日平均3回入出庫すると6回作動
500000回/6回/365日=228年以上が目安になります。
一部は何らかの外部起因で壊れると思いますが、機械式駐車場メーカーの修繕計画サイクルは短すぎる事が理解できます。
<オムロン「 小型基本スイッチD3V-01カタログ」より引用>
<パナソニック「 ASソレノイドカタログ」より引用>
まとめ
今回の内容は「機械を動かし続けている」という前提で解説しました。機械は動かし続けないと使えなくなり、ご説明した事も動かし続けたうえでの耐久性です。
工事の必要性を考える時、使用頻度や基準値等の記録をもとに、数値的な判断で行なっていくのが効率的です。また、組合事業ですから組合員に具体的に理解して頂くことが大切だと思います。一番良くないのは「経年劣化」等、具体的な数値を示さない、「いかにも交換した方が良い」印象を与え、抽象的な表現を並べてくる報告書ほど信憑性のないものはありません。
提示される、見積書等をただ鵜呑みにするのではなく、交換する部品のカタログの耐用年数と使用頻度を比較したり、チェーンを直接診て、信頼性管理方式を用いて、業者に数値で交換の必要性について説明を求めるのも一つの手ではないかと思います。
耐用年数など定期周期による交換に囚われない整備管理方式「信頼性管理方式」について詳しくは第35回コラムをご参照ください。
第33回:「モーター交換の周期と必要性」へ続く
第35回:信頼性管理方式を用いた長期修繕計画
一級建築士・機械式駐車場開発者
野村恭三