コラム
機械式駐車場問題を考える

第38回:機械式駐車場のメンテナンス中止の危険性と保険の問題

「機械式駐車場を停めているので、メンテナンスはしなくて良い」は危険

皆さん、こんにちは。
 
「機械式駐車場の使用を長年停止し、メンテナンスも行って無いので、平面化したい」という要望が昨年から今年にかけて大変多く寄せられて来るようになりました。
 
「使われなくなった機械式駐車場を平面化したい」というのは、機械式駐車場問題を抱えている方だったら、ごく普通な考えだと思います。
 
しかし、ここで問題なのは「長年使用を停止し、且つメンテナンスを行っていない」という点です。それに加え「上段もしくは地上パレットは自走式の平置き駐車場として利用し続けている」というのです。
 
多くのお客様が「機械式駐車場を使わないで良い=メンテナンスしなくても良い=合理的な判断」と思われているようですが、これは後々に高額損害事故を招く要因になっているという事を多くのビルオーナー様やマンション管理組合の方々は気づいておらず、この状況に潜む問題の危険性とリスクについて認知されておりません。
 
機械式駐車場を停止と同時にメンテナンスも中止し、上段もしくは地上パレットを自走式の駐車場として使い続けている状況は落下事故の発生を誘発するだけでなく、事故が発生してもメーカーから保険が出ないという深刻な結果を招いてしまいます。
 
今回のコラムでは、機械式駐車場を停止しメンテナンスをしない危険性と保険の問題について解説致します。
 
 

機械式駐車場は使い続けて安全性が担保される

 
お客様に「なぜメンテナンスをしなくなったのか?」と尋ねると「機械式駐車場を停めているからメンテナンスもしなくて良い」という回答が返ってきます。簡潔で合理的な考えのように思われているようですが、間違っています。
 
機械式駐車場に限らず、機械は使い続ける事によって安全に継続的に使い続ける事ができます。機械式駐車場の場合、日常的に使い続ける事により、オイルやグリスは駆動部に供給されるのです。しかし、これら一連の動作が停止、即ち使用を停止してしまうと、チェーンのオイルは固まり、固着、最悪切れてしまう可能性があります。また、長年機械を停止して、久しぶりに動かそうとしても、動かない、途中で停止してしまう、場合によってはチェーンが破断する事もあります。機械は継続的に使い続ける事により、故障を防ぐ一番の対策にもなるのです。
 
さて、機械式駐車場を長年停止しメンテナンスまでも中止し、上段・地上パレットだけを自走式の駐車場として利用するのはどれだけ危険でしょう?
長年機械を停止し上段パレットに車を停めている状態はでは同じチェーンのピン(約8mm)に荷重が掛かり、しかもチェーンが固着している状況。よりチェーンが切れ、落下事故を誘発するリスクを高めているだけです。
 


<写真:チェーンが固着している様子>
 
機械式駐車場を停止し、上段・地上パレットを自走式の平置き駐車場として利用するリスクについて詳しくは、第21回コラムをご参照下さい。
 
このように、機械を停止しメンテナンスも行わず、上段・地上パレットを使用し続けたら、事故発生を高め何も良い結果を産みません。
 
 

事故が発生しても保険が出ない

 
メンテナンスをしている期間に事故があった場合、通常メーカーが生産物保険で対応していますが、メンテナンスを中止しているとメーカーは対応しません。
 
そうなるとマンション総合保険※で対応しようとしますが、長年に渡り保守点検を所有者(ビルオーナー、マンション管理組合)の意思で行わなかった事を鑑みると、保険が下りるのは難しいところです。
 
※マンション総合保険
マンション総合保険にオプションとして『施設賠償責任補償』を付帯して対応。
一方で、似たような名称で違う種類の保険や補償もありますので、注意が必要。
保険の補償内容は確認が必要です。
『施設賠償責任補償』の名称は、保険会社によって異なります。
 
つまり事故、高額事故が起こったとしてもその責任は機械式駐車場の所有者であるビルオーナー、マンション管理組合に降りかかるのです。
 
「機械式駐車場を使わないからメンテナンスはしなく良い」という考えは、合理性からかけ離れ、ただ危険性を高めているだけです。上段パレットを自走式駐車場として利用しているのなら尚更です。今回のコラムでは、機械式駐車場を停止しメンテナンスも中止する危険性と保険の問題について解説しました。
機械式駐車場を停止する際は一度立ち止まって、計画を立てる事が大事であると思います。
 
機械式駐車場開発者(一級建築士) 
野村恭三